☆☆☆組織開発の実践風景をリアルに描いたショートストーリー☆☆☆
大きな研修室では、様々な部門から集まって「中堅社員ワークショップ」が始まっている。これからの職場リーダーを期待されるメンバーだ。ファシリテーターMが参加者に問いかけた。Mは組織開発の実践コーチとして会社から講師の委託を受けている。
「皆さんの職場で『キラキラな同僚』という言葉にふさわしい人を思い浮かべてください。その人はどんなところがキラキラしていますか?」
あまり間をおかずにひとりを指名した。
「Aさんいかがですか?どんな人を思い浮かべましたか?」
「職場の若い女性です。」
「その方のキラキラはどんな感じですか?」
「いつも笑顔で職場のアイドル的な存在ですね。」
「笑顔が素敵な方なのですね、ありがとうございます。次にBさん、どんな方が浮かびましたか?」
「いわゆるイケメンの後輩を思い出しました。彼は着ているものがシュッとしていてかっこいいんですよ。」
「なるほど、アイドルとイケメンが出てきましたね。もう少し別の視点で『キラキラな同僚』はいませんか?Cさんはいかがでしょう?」
女性参加者のCが応える。
「私は『仕事でキラキラ』という視点で考えました。」
「そうですか、どのようなことですか?」
「彼はイケメンではないですが、仕事をスムーズにできて上司からも信頼されている感じです。仕事している時の目がキラキラしている印象です。」
「なるほど、それも素敵なキラキラですね。仕事を楽しんでらっしゃるのかもしれませんね。ではAさん、職場のアイドルさんは仕事の面でもキラキラしていますか?」
「いえ、そこはまだまだかと・・・、でも失敗を注意された時の照れ笑いなんかが可愛くて職場を明るくしてくれます。」
「Bさんご紹介のイケメンくんは仕事面でどうですか?」
「そうですね、ちょっと一緒には仕事をしたくないかも・・・、かなりマイペースでやりにくいって聞いたことがあります。」
「なるほど、『同僚』を一緒に仕事をする仲間と考えると、それではちょっとキラキラ感が減っちゃいますね。そうするとCさんのご紹介された方が『キラキラな同僚』という言葉には一番合いそうですが、皆さんは同意されますか?」
他の参加者も含めて異存はないようだ。
「では、仮に彼を『仕事キラキラさん』と呼びますが、彼はなぜ仕事をするときの目がキラキラなのでしょう? Cさんのお考えを聞かせてください。」
「えっ!なぜかな・・・」
「彼はいつも簡単な仕事ばかりしているのですか?」
「いえ、そんなことはないと思います。難しそうなことを任されていても、なぜか前向きな気持ちでいられるようです。」
「彼は、難しい仕事でつまずくことはないのですか?」
「考え込んでいる姿はよく見ますが、すぐ先輩にやり方を相談しているようです。」
「つまり、もやもやしたままで無駄に時間を過ごすことが少ない訳ですね。Cさんご自身は、先輩や上司と仕事の相談を気軽にできますか?」
「気軽に・・・ですか?」
少し考え込んでいる。それを見て他の参加者に視線を移す。
「ではかわりにBさん、今の話を聞かれてどう思われましたか?ご自身は先輩に気軽に相談できるほうですか?」
「いや、できれば相談はしたくないと考えると思います。」
「なぜですか?」
「もっとよく考えろ!と言われそうだからです。」
「ほう、先輩方は意地悪なのですか?」
「そんなことはないですけど・・・」
「でも、Bさんは話しかけることに躊躇うわけですね?」
「はい。」
Cが先ほどの問いに答えて、
「私もそういうところはありそうです。それと、忙しそうにパソコンに向かっている先輩に声をかけにくい、ということもあります。」
「なるほど、Aさんも皆さんと同じですか?」
「僕自身は、相談をできていると思います。」
「ほう、BさんやCさんとの違いは何だと思いますか?」
「たぶん、先輩から声をかけてくれるからだと思います。」
「Aさんの進み具合を気にかけてくれている先輩がいるということですね。つまりチームで連携しながら仕事を進めているイメージでしょうか?」
「はい、たしかにチームという感じはあります。」
「ではAさん、先ほどの仕事キラキラさんをどのように分析しますか?」
「はい、きっと同じように先輩方から気にかけてもらえるのだと想像します。だから仕事に不安がないのかな・・・、結果的に集中できるから目がキラキラするのではないでしょうか?」
「ありがとうございます。Cさん、実際はどうですか?」
「でも・・・」
「何か違和感がありますか?」
「はい、彼はチームで仕事している訳ではないのです。」
「なるほど、それでも先輩から声をかけられている、ということですか?」
「はい、そうだと思います。彼のやっていることを先輩方も把握しているからかな・・・?」
「おや?同じチームでもないのに彼の仕事のことを先輩方はご存じなのですか?」
「はい・・・、どうしてだろう・・・?」
「そうだとすると、どこかで『プロセスの共有』が起きていますね。朝会はやっていますか?」
「はい、課員全員で業務の進捗を共有しています。」
「そのとき仕事キラキラさんは、昨日までの成果ではなくこれから進める自分の業務を具体的に話していませんか?」
必死に思い出そうとしている様子を参加者全員が見守っている。
「はい、そうかも知れません・・・、でもちょっと記憶があやふやです。」
「共有内容が未来志向であることと、具体的なプロセス説明であれば、それは自然と前向きで建設的な質問やアドバイスを引き出す効果があります。そんな印象はありますか?」
「たしかに、彼が話す時だけいろんな人が質問している気がします。」
「つまり仕事キラキラさんは、自分の仕事に他の人の知恵や経験を活かせているということです。これはリーダーシップと言えますね。」
「リーダーシップ?ですか。」
「はい、仕事は彼が任せられたものですが、その遂行過程で他の人を巻き込んでいますよね、自然にチームが形成されてその中心に彼がいるわけです。」
「そっかぁ!」参加者は各々の気付きを手元に書き込んでいる。
「リーダーシップはキラキラ!」と、ノートに書いたCが質問する。
「リーダーでなくてもリーダーシップは必要なのですか?」
「そうですね、立場としての『リーダー』とは分けて考えましょう。『リーダーシップ』は誰もが持てるし、発揮できるものです。未来志向で具体的なプロセス共有は、仕事のリーダーシップ発揮につながる!ということです。」
皆がその考え方を咀嚼している。
その様子をひとわたり確かめてから、ファシリテーターMは研修室全体にグループ対話を始めるよう伝えた。
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