☆☆☆組織開発の実践風景をリアルに描いたショートストーリー☆☆☆
「S課長、職場のコミュニケーションはうまくいっていますか?」
実践コーチMからのストレートな質問に、Sはどう答えたものか?と考え込んでいる。
Mは組織開発が専門のコーチ、今日は課長クラスの育成ワークショップのファシリテーションを担っている。ここは、対話を通じてマネジメントについて経験学習を行うトレーニングの場だ。
「S課長いかがですか?直感的に答えていただいて構いませんよ。」
「はい・・・、どちらかと言えばうまくいっているのではないか、と思います。」
「そうですか、どんなところが良いですか?」
「営業系ということもありますが、みんなきちんと挨拶はしているし、雑談なんかも多くて普段から遠慮せずに話し合える関係ができていると思います。」
「なるほど、明るい職場のようですね。課内の打合せはしていますか?」
「はい、月曜の朝に1時間くらい集まっています。」
「ありがとうございます。では次に、T課長のところは生産部門でしたね、職場のコミュニケーションはいかがですか?」
「悪くないと思います。現場は実際に生産に関わる作業者と、それを支えるスタッフに分かれています。年配の作業者と若い大卒スタッフとの間でも、笑いが絶えない様子が見受けられます。」
「たしか、交代勤務でシフトを組んでいましたよね?」
「はい。」
「T課長が課員すべてと話すのは大変かと思いますが、その点はいかがでしょう?」
「はい、作業者を含めると課員が90名近くになるので、作業者一人ひとりへの声かけはスタッフリーダーに任せています。だから、私が接するのはリーダーを含めたスタッフ達15人くらいになります。」
「そうですか、スタッフさんを集めてのミーティングは毎日ですか?」
「スタッフリーダー4人とは、毎朝と昼休み明けに状況確認をしています。スタッフ全員とは、週一回スタッフミーティングを行っています。」
「なるほど、人数が多いと大変そうですね、ありがとうございました。次にU課長のところはどうですか?」
U課長は、昨年昇進したばかりの女性課長だ。
私のところは、幸い12名なので基本的に毎日全員と話すように心がけています。」
「最近よく言われるOne on Oneですか?」
「いえ、もっと簡単なものです。『あれはどうなっている?』とか『USA支社から頼まれた件進んでいる?』みたいに、何かしらの話題を振って一言二言の立ち話ですね。」
「なるほど、課の定例ミーティングのようなことはしていますか?」
「はい、週一回やっています。」
「どんなことを話されていますか?」
「メンバーがそれぞれ違うテーマを担当しているので、お互いの情報共有と進捗確認が中心です。」
「わかりました。ありがとうございます。他にコミュケーションで何か特別困っているような事情をお持ちの方はいらっしゃいますか?」
特に手は上がらない。
「皆さんおおむね良好なコミュニケーション状態だと考えてよろしいですね?」
全体を見回すが、特に異論はないようだ。
「では、次に進みましょう。皆さんはそれぞれ何らかの形で課のミーティングを定期的に行っています。やってない、といいう方はいませんね?」
手は挙がらない。
「はい、ではお尋ねします。そのミーティングは『未来志向』でしょうか?」
「未来志向・・・?」
「例えば進捗確認ですと、先週やったこととその成果、そしてできなかった事とその理由などの共有が中心になりますね。これが『未来志向』だと、これから先一週間の行動予定やそれを進めるうえで障害になりそうなことを共有することになります。二つのコミュニケーション特性の違いは何でしょう?」
ざっと参加者の表情を見回して、そのまま続ける。
「前者は過去のことになりますが、後者はこれから起きることなので必要な手助けや助言を伝えることができます。S課長のところはいかがですか?」
少し考えて、「人によって違うような気がします。前週に注文を取れたメンバーはそのことを報告します。良い話ではありますが、たしかに過去の出来事ですね。成果のなかったメンバーは見込みのありそうな商談状況を話していますね。『未来志向』なのかどうかは微妙ですね。」
「課長やまわりがサポートできるような対話になっていますか?」
「いや、順番に発表するだけです。少し改善した方がいいのかな?」
「そうですか、ちょっと考えてみましょう。では他の方にも聞きますね。次は、T課長!」
「私のところは、毎朝その日の生産計画を確認するので、それは『未来志向』ですね?」
「サポートが必要になりそうな情報はそこに出てきますか?」
「計画数量を共有すればそこから先は標準化された手順が進むので、あまり相談にはならないですね。」
「例外処理的な作業が予定されているようなときはどうですか?」
「そういうときは、手順書が使えないので気を使います。作業計画にヌケモレがないかどうか皆で確認する話し合いをしています。」
「それは、『未来志向』と言えますね。」
「そうですね。」
「U課長はいかがですか?」
「うちはメンバーがそれぞれ別の案件を処理しています。週一回の課会で全員が細かい話を始めると時間がかかりすぎるので、表面的な情報共有になっているかも知れません。でも、わからない事や判断に迷うことはその場で出してもらうことにしていますから、いちおう『未来志向』にはなっていると思います。」
「いちおう?ということは、何か足りないと思われていますか?」
「はい実は・・・、処理案件がとても多くて、つい後追いになってしまうケースも多いです。」
「なるほど、扱う情報量が多いときに適切なコミュニケーション方法、というのが気になるポイントでしょうか?」
「そうかも知れません。」
「悩ましいですね。」
「はい・・・。」
「皆さんありがとうございます。それではここからグループに分かれて話し合ってみましょう。お題は『未来志向のコミュニケーション』です。それぞれ部門特性が違う人が組むようにグループ編成してあります。だからメンバーは、まったく違う視点を持つ人同士になります。遠慮は禁物!お互いの違和感をリアルに共有してみましょう。それでは対話スタートです。」
今回は、基本的な定例ミーティングをマネジメント視点で掘り下げるグループワークだ。
漫然と繰り返しがちな会議体の意味や目的を再確認するとともに、管理職としてどう向き合うのか?を考えるきっかけとなる。実践コーチMは、参加者がそこからなんらかの学びを得られるような場づくりを支援している。
各グループとも、すぐに熱をおびた話し合いが始まり、Mはその様子を静かに観察し始める。
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